Shameを「恥」と訳してよいか?

「TEM 知恵の輪クラブが答えます。」

Q

Shameを「恥」と訳してよいか?

A

―翻訳者泣かせの日本の“恥の文化―

ベストセラーになったアメリカの小説の翻訳を読んでいてビックリしたことがある。

It’s a shame Isn’t it”を「そいつは恥だ、でしょ!」と訳されていたのである。前後が分からないと判断が難しいかもしれないが、どう考えてもここは「ひどいでしょ、ねえ」とでもしなければ前後の文脈が続かない内容である。

どうもこの“shame”という言葉が出てくると日本人は即座に「恥」という言葉を当てはめてしまう傾向があるらしい。

ところが英語の日常会話ではこの“shame”が日本人の考えるような「恥」という概念をもって使われることは少ない。That’s a shame! といえば「けしからん!」と訳すのがぴったりくる。「それは恥だ!」では何の事だかわからない。

アメリカに初めて赴任した時、持病の腰痛が悪化して立派な総合病院に行ったことがある。診察のためにガウンに着替え上着に財布を入れたままロッカーに残して診察を受け戻ってみると財布が抜き取られていた。誰かが病院のロッカーに侵入して荒らしていったのである。

翌日会社に行ってこのことを話すと初老の総務部長が盛んに“It’s a shame!”を連発する。まだよく英語が理解できない頃だったので、へえ、アメリカ人でも自分の国の人間がこんな犯罪を起こしたことを「それは恥かしい!」と言っているのかと思ったものだ。

ところが後になって分かってみると“恥”などとは何の関係もなく、「それはひどい目にあったね! 大変だったね!」と言っていたに過ぎなかったのである。

最近日本でも野球の試合でよく歌われるようになった、“Take me out to the ball game!”(私を野球に連れてって!)という歌がある。この中にも“If they don’t win, it’s a shame”という歌詞が出てくるがどの日本語訳を見ても“負けたら恥だから”となっている。これなども別に恥とか恥かしいとかいう感覚はなく、「負けるなんてとんでもない!」くらいの意味しかない。

「恥」の精神を重んずる日本人の独特の文化故なのであろうか。

TEM雑Q3)

トータルEメディア出版刊 

宇井戸 元著ことばは異なもの味なもの

24ページより

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